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アメリカ商標法解説(1)コモンローと大陸法

西洋文化の主な法体系として「大陸法系」と「英米法系」が挙げられますが、米国は文字通り英米法系に属する国であります。

 

コモン・ローと先例拘束の原理

英米法の大きな特色はコモン・ローです。コモン・ローとは、広義には判例法のことを意味し、裁判所における判決の積み重ねにより生み出された法である判例法が第一次的な法源となっています。

それは多くの場合は文字として表されていない不文法の形式をとっています。そして、先例拘束の原理(裁判所がある事件を解決しようとする場合、先例が存在すれば、これに従わなければならない)により、法的安定性を担保しています。シンプルにいうと、過去に似た事実に基づく判例(先例)があれば、今回も同じように判断するということになります。

 

制定法の優越

判例法主義をとる英米法では、整理された条文による法典というほどではありませんが、議会の議決を経て立法される制定法も存在します。

この場合、制定法がコモン・ローに優越するものとして扱われます(制定法の優越)。いわば、制定法が特別法、コモン・ローが一般法の関係にあると言えます。ただし、制定法は、基本的にコモン・ローを下敷きにしていることが多く、また制定法が規定していない事項や制定法の解釈についてはコモン・ローに基づいて判断しますので、依然としてコモン・ローが重要な役割を果たしています。また、制定法といえども、綿密に構成された大陸法の法律に比べて非常に大雑把な形で構成されています。

米国は、もともとイギリスの植民地であり、各植民地ではイギリス法が行われておりましたので、その影響を受け、州ごとにイギリス法を継受しました。州によっては、ルイジアナ州がフランス法を継受する等、大陸法の影響を受ける州もありますが、米国全体としてはコモン・ローが広く適用されています。

 

大陸法と英米法の法的アプローチ

大陸法と英米法では、法律問題への対処の仕方が大きく異なります。大陸法では、法は「法律」と同義であり、法は文章で表されていますから、まず関係がある法律の条文を探し出すことから出発し、そこに具体的事実をあてはめ、三段論法的に法律を適用し、結論を見出します。そのため、法律実務家にとっては、よほど解釈が分かれる場合を除き、法律的な結論を出すことは比較的容易です。

一方の英米法では、まずは具体的な事実から出発し、成分化された法律ではなく、過去の似たような事実に関する先例を探し出し、先例拘束の原理のもと、その先例に沿った形での結論を見出します。英米法における裁判所の判決は、原則として先例を引用していますし、弁護士が法的見解を作成する場合には、過去の判例をサーチすることから始まるのです。

したがいまして、英米法の実務家にとっては、まずは事実の分析と先例の検索が非常に重要であり、それなくしては法の適用は困難です。

このような英米法の法的アプローチは、日本のような大陸法系の国で制定法での法適用に慣れ親しんだ実務家にとって、ときに英米法の全体像を把握しにくいと感じる一因です。

 

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