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アメリカ商標法解説(6)コモン・ロー上の商標権
商標の商業的使用により、その使用地域に発生するコモン・ロー上の商標権
米国での商標権は、原理的に、コモン・ローに基づき、商標の「商取引における使用(use in commerce)」により発生します。
コモン・ロー上の商標権は、不正競争に関する州裁判所の判決の蓄積により、商標の出所混同を防止することを目的に商標権が認められるに至った経緯があります。そのまめ、権利発生には商標の「商取引における使用」があれば十分であり、日本のように、出願・設定登録という国家の行政処分を経る必要はありません。
すなわち、ある標章を自他商品の識別標識である商標として使用することによって、商標権が発生するのです。ただし、権利が認められるのは、その商標が使用されている地域(消費者に認知されている地域)に限定されます。これが、「コモン・ロー上の商標権」です。
ただし、現実の使用によって発生するコモン・ロー上の商標権は、権利の存在を立証する客観的な証拠がありませんので、権利を行使する場合には、いつから商標の使用が開始され、また、どの地域で使用が継続されているか等を、裁判所において権利者自身が立証しなければなりません。そういう意味では、設定登録を経た商標権と比較すると、不安定な権利といえるかもしれません。ただし、権利の存在が認められれば、
コモン・ロー上の権利同士が競合する場合(先使用主義により解決)
このように事実上の使用によって発生するコモン・ロー上の商標権ですが、同一・類似の商標権同士の抵触はどのように調整されるのでしょうか。これについては、先に使用している者が、後に使用を開始した者に優越するという「先使用主義」により整理されることになります。
上記のとおり、コモン・ロー上の権利は、商標が使用されている地域に限定して認められますが、同一地域内において、同一・類似の商標に関するコモン・ロー上の商標権が競合し出所混同のおそれが生じている場合には、使用開始が早い方に他の権利に対する優越性が与えられることになり、遅れて使用を開始した者の行為は、先に存在するコモン・ロー上の権利を侵害することになります。
一方、コモン・ロー上の商標権は、出所混同を規制する裁判所の判決により認められるようになった経緯がありますが、使用地域が重ならなければ、公衆の間で出所混同が生じることもありません。したがって、その使用地域が出所混同のおそれ無い程度に十分に離れていれば、同一・類似の商標であっても、それぞれが有効な権利として併存できることになります(United Drug Co. v. Theodore Rectanus Co., 248 U.S. 90 (1918).)。