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アメリカ商標法解説(8)制定法に基づく商標権(州登録と連邦登録)

制定法に基づく商標権

コモン・ロー上の商標権は、実際の使用があれば発生するものですが、権利を行使するにあたっては、自らの商標の使用開始日及び使用地域により商標権の発生を自ら立証するだけでなく、相手方の商標の使用開始日や使用地域をも立証して商標権侵害を主張しなければならず、権利行使上の立証負担は小さくありません。この点、制定法に基づく州登録及び連邦登録の商標権であれば、このような立証負担が軽減されますし、特に連邦登録にあたっては、様々な法律上の利益を得ることもできます。したがって、米国でビジネスを行う事業者であれば、コモン・ロー上の商標権で十分であるとはせずに、制定法による商標登録を行うことが一般的です。

 

連邦登録については米国特許商標庁(USPTO)、州登録については各州の長官事務所に出願し、一定の審査を経て登録されることになります。ただし、いずれも、コモン・ローに基づく商標権の内容を下敷きにしていますので、商標登録の獲得・維持には原則として商取引における使用が必要となりますし、登録自体が維持されていても、使用再開の意図なく商標の使用が中止されれば、商標権は放棄されたものと扱われます。そのため、商標の商取引における使用なくして商標権の存在を観念することができず、これが、日本のように使用事実と関係なく権利の発生を認める「登録主義」と対比して、米国が「使用主義」であると言われる所以です。

 

州登録と連邦登録

連邦登録は、1946年に成立した「ランハム法(Lanham Act)」に基づき認められるものです。ランハム法というのは、連邦商標法の正式名称ではありせんが、米国では法案提出者の前で呼ぶ慣習があり、法案を最初に提出した下院特許委員会商標小委員会委員長のFritz Lanham下院議員の名にちなんで、ランハム法と呼ばれます。ランハム法の対象となる通商は、合衆国憲法の州際通商条項によって「国際取引(international commerce)」および、州と州をまたぐ「州際取引(interstate commerce)」が対象であり、連邦登録に基づく商標権の権利範囲は米国全土となります。

 

一方、州登録に基づく権利は、各州で制定された商標法に基づき認められるものですが、その対象範囲は「州内取引(intrastate commerce)」であり、州登録に基づく商標権の権利範囲は当該州内に限定されます。例えば、商取引が州内で完結している場合には、連邦登録を利用できませんので、州登録による保護を求めることになります。

 

このように、連邦登録と州登録では、対象とする商取引と、権利が及ぶ地域的範囲に相違がありますので、その商取引の状況によって、適切な登録を選択することになりますが、商品流通の発達により、州内で完結する取引が稀になってきている現代では、通常は連邦登録が利用されることになり、州登録が活用されることは少なくなっています。