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マドプロ利用のメリット・デメリット(デメリット編)

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マドプロ利用のメリット・デメリット(デメリット編)

多忙のため、前回のコラムから時間がたってしまいましたが、ようやく時間に余裕ができたため、デメリット編を一気に書いてみました。

1.日本国の基礎出願又は基礎登録が必要である。

本国登録の保護を拡張するという建前上、その基礎となる日本国出願(基礎出願)または登録(基礎登録)が必要となる。このマドプロ出願は、この基礎出願又は基礎登録の範囲内で行う必要があり、具体的には基礎との関係で下記のような制限がある。

(1)出願商標が基礎出願または基礎登録と同一であること

マドプロ出願を行う商標は、基礎出願または基礎登録と同一でなければならない。したがって、例えば日本の商標がカタカナや漢字といった日本語で構成されている場合、これを基礎としてマドプロ出願することは可能ではあるが、外国で使用する商標としてはふさわしくないこともある。その場合には、マドプロではなく直接出願で外国で使用する商標を出願するか、マドプロ出願用に改めて日本で出願することになる。一方、外国で使用したい商標が、どうしても日本では権利化できない場合(例えば、「YAMADA」など、ありふれた氏のみから成る商標)もあり、この場合はマドプロ出願は利用できない。

(2)指定商品及び役務の範囲の制限

マドプロ出願の指定商品及び役務は、基礎出願または基礎登録と同一又はこれに含まれていなければならない。したがって、日本での商品・役務の範囲を超えて出願することはできない。例えば、外国では第36類で「Financial service」のような包括的な表記が認められているにもかかわらず、日本では「預金の受け入れ」など細分化した表記しか認められていないため、マドプロ出願において「Financial service」を指定することはできない。

2.セントラルアタックのリスク

国際登録日から5年が経過するまでは、国際登録は基礎出願または基礎登録と従属する。したがって、基礎出願または基礎登録が国際登録日から5年以内に取消・無効になってしまった場合には、国際登録全体も同時に取消・無効になってしまう。これを、実務上「セントラルアタック」と言う(核となる部分を攻撃すれば、すべてを無効にできることにちなんだ名称と思われる)。日本で全く使用していない商標に基づいてマドプロ出願をして国際登録をした後、3年間の不使用を理由に不使用取消を請求されて登録取消となったような場合にもセントラルアタックとなる可能性があるので、上記の例のように、マドプロ出願のためだけに日本で出願した商標については注意が必要である。

なお、実際にセントラルアタックになってしまったとしても、各指定国部分については実質的な問題はないはずなので、国際登録の取消から3か月以内であれば、出願日の利益を維持したまま各指定国において再出願(国内商標出願への転換:トランスフォーメーション)ができる救済制度がある。これは、取り消されたのが指定商品・役務の一部である場合にも利用できる。ただし、各国での出願は、代理人を経由した直接出願となるため直接出願の費用が発生する。

3.各国の審査で区分の変更ができない

加盟国の実務において、ある商品・役務の所属区分が誤っていた場合、補正により対応することができるのが一般的である。しかしながら、マドプロ経由で出願した場合、国際登録された区分を変更することはできないため、各国の審査で商品・役務の所属区分の相違を指摘された場合には、その商品・役務を削除するしかない。このような問題は、第25類「衣類」といった所属区分が世界的に定着している商品については問題となることはないが、例えば医療関係の商品については、医薬品(第5類)なのか医療器具(第10類)なのか判然としないこともあり、各国の区分の実務が相違することがしばしばある。また、役務にあっても、オンラインによる動画配信などが、はたして娯楽の提供(第41類)なのか通信(第38類)なのかが問題になることもあり、全く新しい分野の商品・役務についても問題が生じることがある。一方、仮に補正なしで権利化できたとしても、各国の実務に照らせば、必要な保護が得られていないといったことも生じ得る。したがって、このようなリスクが懸念される場合には、各国の実務家と相談の上、直接出願とすることが無難である。

4.その他、些細なデメリット
(1)本当に審査を経て商標登録されたか否かがはっきりしないことがある

マドプロの共通規則により、指定国においては、指定通報から所定期間内(12か月又は18ヵ月の拒絶通報期間)に拒絶理由を発見して、WIPOに通報することが義務づけられている。逆に言えば、この期間内に拒絶理由が通知されなければ、登録されたものと考えることができ、これが審査迅速化につながっていると言える。2009年により、各加盟国に対して、審査で登録処分となった場合には「保護認容声明(Grant of Protection)」を通知することが規則として義務づけられており(共通規則第18規則の3)、これによって登録されたことが確認できるようになったが、加盟国が規則を守らなかった場合の罰則がない。例えばエジプトやオマーンは、私が知る限り声明を出したことはなく、またこれらの国を含め、審査期間が長い国に限って声明を出さない傾向にあるので、この場合には、本当に登録されたか何とも心もとない感じであり、これまでどおり拒絶通報期間の経過をもって登録が確定したとみなすか、不安がある場合には、各国の実務家経由で特許庁に登録の確認を行うことになる。

(2)登録されても権利自体が有効とは言えない国がある

コモンローを法体系のベースとする国にあっては、国際条約を締結したとしても、それを国内法として改めて制定しない限りは効力が認められない。したがって、マドプロに加盟をしており、マドプロ経由で商標登録ができるにもかかわらず、国内法での整備がされていないため、実際に権利行使ができるか不明な国がある。この問題は特にアフリカで顕著であり、イギリスの植民地であった国(レソト、リベリア、ナミビア、シエラレオネ、スワジランド、ザンビア、ジンバブエ)では、これを理由として権利行使ができないと言われている。権利行使ができなくても、第三者の後願さえ排除できれば良いと考える方もあるようだが、現地筋に確認したところでは、マドプロ経由の出願は、そもそも出願としては扱われておらず、審査もされずにそのまま特許庁内で書類が放置されている、といったこともあるようである。したがって、少なくともこれらの国については、マドプロはお勧めできない。

一方、同じアフリカで旧フランス植民地の国により構成されるOAPI(アフリカ知的財産機関)についても、大陸法を法体系としてはいるが、同じような問題がある。OAPIは、バンギ協定(Bangui Agreement)により設立された国際機関であり、OAPIとして出願・登録することで、加盟国全体での保護を得ることができる制度を持つが、マドプロ加盟にあたっては、設立法規であるバンギ協定の改正を行わず規則の変更により対応している。そのため、バンギ協定の改正をするまでは、マドプロは有効ではないと言われている。なお、このような必要な手続きを踏まずにマドプロに加盟したことは域内での批判を呼んでおり、これに反対する弁護士から訴訟を提起されている(そして訴訟を提起した弁護士は代理権を剥奪されるといった混乱もあるようだ)。OAPIについても、現時点ではマドプロはお勧めできない。

(3)登録証が出ないことの影響

マドプロ経由で登録された場合、各国の特許庁からは保護認容声明は通知されるが、必ずしも、直接出願であれば得られる「登録証」が発行されるとは限らない。通常は登録証は名誉証的な扱いなので、このことが問題になることは無いのであるが、例えば中国のように、権利行使の際に裁判所への登録証提示が義務付けられるといった、名誉証以上の機能が与えられている国もある。このような場合、改めて登録証明を発行してもらう必要がある。なお、上記した中国にあっては、登録証明発行までに3~6ヵ月かかるので、迅速な権利行使に支障が生じることもある。

(4)拒絶対応の機会が少なくなる場合がある

加盟国の国内実務によっては、原則として拒絶理由に対する意見書による反論が認められておらず、最初の反論が審判になる場合もある。しかしながら、このようなルールの下であっても、実務上は非公式な形で意見書での反論が行われている国もある。マドプロについては、こういった非公式な対応は利用できない。例えばベトナムでは、直接出願であれば意見書で反論できるところ、マドプロの場合は最初から審判となってしまい、反論の機会が減るという「相対的な」デメリットがある(さらに、審判の場合には、反論の証拠は宣誓書(要公証)の形で対応しなければならない)。

5.まとめ

以上、得られるメリットとのバランスでいうと、利用をためらう程の大きなデメリットがあるとは言えず、事前にリスクを理解して適切な準備・対応をすることで、最大限のメリットを享受できる制度であると思う。

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